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 オーディション企画

綿津見 × 天下井 ( 3/9 ~ )

天下井 良弥

一次選考の課題が伝えられ、練習生達が各々の課題に取り組んでいたある日のこと。天下井は自室の前に大量に運び込まれていた段ボールの山に頭を抱えていた。送り主は実家の祖父母。そして中身はというと、大量の和菓子だった。彼の実家は一部で名の知れた甘味処で、そして祖父母はといえば、かなり孫に対して熱量があるタイプ。とどのつまり、孫の一世一代の大勝負に自分たちも何かできないかと思い立った結果がこの差し入れの山なのだろうと理解するのにそう時間はかからなかった。
「 …… 困ったな、どうすっか …… 」 
とはいえ、幾ら愛情故の産物出会ったとしてもこの量を一人で捌くのは無理だ。はっきり言って無謀だ。そうなれば別の解決策を見つけ出すしかない。仮にも食べ物を無駄にするなどという発想は、良心が苛まれるので当然のように棄却された。暫くうんうんと部屋の前で段ボールを抱えたまま悩んでいた矢先、閃いた。
「 そうじゃん、俺一人で片付けようとするから無謀な訳で …… 誰かに手伝ってもらえればなんとかなる、か? 」 
俺は段ボールを片付けられる、相手は少なくともそこそこの味は保証されているお菓子を食べられる。なんだ、WIN-WINの名案じゃないか。矢っ張り普段から省エネしているといざという時にエネルギーが上手く回るものだと、一人ほくそ笑む。そうと決まれば話は早いと、段ボールを部屋に運び終えた後に廊下へと繰り出す。誰でもいい、いや、駄目だ。モデル連中のように下手に体型に気を使っている奴は敬遠するかも知れない。だったら、食べ盛りの男の方がいい。そんな都合の良い練習生、誰かいないか______そう祈りを続けながら、いつものジト目をより凝らしてふらふらと人探しをしていた。

綿津見 麗楽

(いつもは、ひとつ縛りの銀色を課題に取り組むのを理由に今日はお団子結び。現段階で課題に使えそうなことを紙にいくつか書き出していく。ガリガリ…と静かな部屋には、ボールペンで書く音、ほんのり香るインクの匂いが漂っていた。ふと、ボールペンが握られていた手が止まった。そのままペンをクルクル何度か回した後、雑にペン立てに入れた。)
ア”ーーー………糖分が欲しい。
(誰もいない部屋でポツリと呟く。疲れた時は糖分と偉い人が言ってた。生憎、自分の部屋に甘いものなどなく、背伸びをしてから、扉に向かう。共同スペースであるリビングの様な所に行けば、きっと何かあるはず……疲れているため、自分で作る気はさらさら無い。ドアノブを握り部屋の外に出た瞬間に、勝手ながら『茶トラ君』と呼んでいる彼が廊下にいたなんて想像出来る訳無いだろう?)
ン、?…茶トラ君じゃん!どしたの〜?何処かにご用事…?うららさんはお疲れモードだから糖分補給の行く予定なの〜
(ヒラヒラと片手を振って猫君にご挨拶を。) 

天下井 良弥

「 うおっ …… っ!? って、なんだ。綿津見さんか …… 」
あっちへふらふら、こっちへふらふら。歩いて居る内に、此方もお腹が空いてきた。嗚呼、早く見つかってくれないか。出なければもう諦めて暴飲暴食悪食祭りと化してしまう。そう思った瞬間、ガチャリと音を立てて目の前に銀糸が何食わぬ顔で此方に現れたものだから驚いた。そういえば、糖分補給がどうとか言っていたような。もしやこれは渡りに船、神が寄越した救世主なのでは。この調子だと直ぐにでも歩いていきそうな彼に、呆気に取られるのもいい加減にしていつも通りの笑顔を浮かべた。
「 そりゃ丁度いいところに。いや、実は俺、今甘いものをなるべくいっぱい欲しいって人探してて …… 和菓子でよければなんですけど。綿津見さん、どうです?」 
これで駄目なら最悪消費期限には悪いけれど、共有スペースに置きっぱなしにしてご自由にどうぞルートしか思いつかないし。そう頭を掻きながら、申し訳なさそうな顔をして少しでもいただいていただける確率を上げにかかる。例えるならば、弟分のような顔をした。役者でない自分にはこれが限界だったけれど。

綿津見 麗楽

あんりゃりゃ……驚かせたならごめんね?
(少し驚いた様な顔をした相手に、ケラケラと相変わらずの軽い笑いがひとつ。そんな相手の口から出たのは、甘いものがほしい人を探している、良ければ食べませんか?みたいなニュアンスのことが聞こえた。ほんの数棒固まったかと思うと、わかりやすくにこーっという効果音がつきそうな笑顔が返ってきた。なお、彼はお酒の飲める年齢である。)
いいの?それなら俺さんで良いなら遠慮なく頂こうかな〜!あ、でも酸味は無理。そういえば、茶トラ君とこはお団子屋さんとかなんとかだっけ…?……応援というために沢山送られて来たパターンかな?
(和菓子と言ったら、あんまり食べたことが無い気がする……。お饅頭か大福…お団子、煎餅……ぐらいかなと思い出していて。和菓子って俺さん的には少々手が出せないのよ…。”和菓子食べるんだったら、お茶でも持って来たほうが良い感じ?”そう言った後、楽しさ気にゆらゆらと体を左右に揺らしているのであった。)

天下井 良弥

「 いや、俺も周りよく見てなかったんで。気にしないでください 」 
実際、空腹も相まってぼうっとしていたのは事実だしと、内心舌を出して付け加えていた。それに気にするくらいなら多少苦手だったとしても悪いと思ってあの和菓子の処理に協力してほしい。そんな悪どい考えを巡らせていると、眼前の彼が固まっていたのに気付いた。さながらフリーズしたパソコンのアプリケーションのようだ。ああいうのは、何度かクリックすると突如として息を吹き返すよな。突いたら戻るかな、なんて余計なことを思いながらも実際に指を動かさずにその様子を眺めていると、彼はまるで子供のように天真爛漫な笑顔を浮かべていた。自分より年上なんて信じらんねえよ。でも時々話していると、彼の面倒見の良さから本来の年齢を窺い知ることが出来るのだ。だからこそ、何故時々こうも幼なげな表情を見せることが出来るのか思わず疑問に思ってしまう。それこそ、役者だって向いていそうなものだけれど。
「 はは、なんかもうお見通しって感じ …… ? でもよかった、そういうことなら決まりですね。ほとんど餡子ものなんで、大丈夫だと思います。嫌なら好きなものだけ片付けてもらっても十分助かりますし 」
綿津見さん酸っぱいの駄目なんだ。今度駄菓子屋に売ってる酸っぱいガム入りのお菓子、こっそり買ってこようかな。でも怒られたら今後和菓子処理に付き合ってもらえないだろうしな。悪戯心が擽られる提案は、三秒で闇に葬られた。その間にも相手はゆらゆらと身体を揺らしながら待ち遠しそうにしているので、此方ですと先導するように部屋に向かって歩き出した。 お茶の有無を確認されたが、それには丁重に首を横に振った。ただでさえ此方がお願いしている側なのだから、手ぶらで来てくれるだけでも有り難いのだし。

綿津見 麗楽

(自分も周りをよく見てなかったと聞き、なら問題無いねと、静かに安堵する。数秒固まっていた理由は、疲れてあまり頭が働かず、処理が遅れたとでも言っておこう。幼げな笑顔は、無意識によるもので、おっと…と軽く声を漏らしと片手で口を押さえる。パチパチと瞬きをした後は、少し照れた様にまた笑みを浮かべるのであった。少年時代が少し足りなかった彼は、オトナに子供というエキスがまだ残っている。)
そうでもしないと、食べ切れない量を送ることは無いと思うからね〜…愛情の量とお菓子の量は等しいことさ
(ほんの一瞬、寒気がしたけど気のせいだと思いたい……彼の中では、『酸味イコール腐ってる』という認識がどうしても離れず、ずっと苦手なのだ。和菓子はほとんど餡子だと聞き、”それなら大体食べれるよ。”と返事を返して。多分、彼と出会わずにいたら……砂糖ごってりのコーヒーでも啜っていたと思う。人間の頭は糖分でしか働かない様に作られているから仕方ないのだ。彼がお茶は大丈夫だと言うので、特に突っかかることなんて物騒なことはせずに、先導する相手の後ろを雛鳥のごとく、ついて行く。お団子にしきれなかった銀色は控えめに揺れた。)

天下井 良弥

愛情の量とお菓子の量は等しい、ね。確かに、重たすぎる愛情ならば胃にもたれるのも無理はない。尤も、そんなつもりは毛頭ないが。決して愛情を多く受けてきたと胸を張れる程日向を歩いてこなかった以上、些か破裂寸前になろうとも、その愛情を無碍にするわけにはいかない。少なくとも自分は、誰かからの肯定的態度を軽々しく扱えるほど自分自身で肯定の循環を行えないのだから。彼の言葉を反芻しながら、何気ない雑談に華を咲かせ廊下を歩いていく。銀色の隣で揺れる狗尾草を見送る人はいない。皆、選考の渦中であるという自覚があるのだろうか。通り過ぎていく部屋からは響いてくる歌声や、普段の若人のものとは違う演じられた役柄の響き、カツカツというヒールの音。幾重もの音が重なり、それでいて自らを見出せと言わんばかりに自我を主張していた。
「 そういえば、綿津見さんは課題って進んでるんですか? 」 
思い出したように話題を口にした後、軽々しく口にすべきではなかったかと思い直ぐ結ぶ。互いに同じチームというわけではない以上、不可侵の領域として素知らぬ顔をした方がよかっただろうか、なんて不安に駆られ下を向いた。部屋はすぐそこまで迫っていたけれど、直ぐ隣にいる彼の顔が見れなくなりそうで。どぐりと脈を打った胸に手をやりながら息を吸った。

綿津見 麗楽

(年下だけども、同級生の様に話せる彼と雑談を挟みつつも、時折耳に入ってくる努力の音。良いなぁー…一曲ぐらい出来そうな気がすると、聴こえてくる重奏を心の中のメモに書き留める。ある意味、課題をクリアするアイテムの一種だと思っておこうと。個性は色とりどりで、綺麗だ。やっぱり自分は、曲を作り外に出すという行動が好きだとも思った。)
ン?課題のこと…?ンーー…詳しくは言えないけど、進んでいるとは思ってるよ、?進めておかないとねー……後がめんどい!
(先程までの自分の行いを思い出して、上記の事を喋る。冬常はペアだから、わりと進めていたほうが相方くんにご迷惑をかけないだろうと…そう言う気持ちがあった。だが、彼の問いの後は少し空気に違和感を感じた。チラリと隣の子猫を見る。……どうやら自分で自分の首を絞めている…様に見えた。特に自分は迷惑だと感じなかったが……。それでいて、項垂れた彼の頭を軽くポスポスと撫でてしまうのは、兄であることを示す呪いなのだ) 
 ”心配することは無いよ。誰も君を責めたりしない。世界はそこまで暗くは無いよ。”
(きっと幻聴だと思われるが、声の主は隣の銀色。ポスポス頭を撫でたかと思うと、相手寄り数歩先を歩いて”茶トラ君のお部屋ってここで正解?”といつもと変わらぬ彼が、扉の前で笑うのであった。)

天下井 良弥

「 そ、そっか。矢っ張り準備も万端で、綿津見さんしっかりしてますよね。はは、俺も見習わないと …… 」 
嗚呼、大人だなあ。漠然とそう思った。大事なところはしっかり隠して、それでいて誰も不快になんてさせない。俺にも、こういう器用さが欲しかった。けれど、存外人を思いやったり、人に好かれるような才能っていうのは後天的に得るのは難しいみたいだ。冬常で彼と一緒にやっているプロデューサーくんと彼は似ている。どちらも上手いこと人の懐に潜り込んで、いざという時には己を護る角を持っている。何となくだけれど、意外と似たもの同士だ。そう思いを巡らせるほど、現実逃避は進んでいた。そうでもしないと、自分の失態に耐えられそうになかったから。
 「 ……え、 」
ぽすり。無駄に量を感じる毛髪の上に被さった掌が、抑え込んだセーターの繊維を上書きした。耳元には旋律。一瞬、白昼夢にでも迷い込んだような錯覚。気付けばいつも通りの彼がいて、へらりとしながら笑っている。俺の心なんて知らないよっていうような、子供染みた幼い彼がそこにいる。だから自分も、気付かないふりをした。口に出したら無粋だと、在りし日の俺が笑ったから。
「 ……大正解ですよ、流石は綿津見さん。兎のような嗅覚で。 」
冗談混じりに返していって、そうかと思えば彼の先にするりと潜り込み扉を開ける。いつかの音楽室を思い出したことは秘密のまま、開け広げられた段ボール塗れの自分の城へと彼を誘う。 天下井の自室は、非常に簡素なものだった。元々物をあまり持たない、というよりは、欲しがらない性分だったというのが大きいだろう。ベッドや机など、備え付けられたものはそのまま利用し、拘りも何もないようだった。強いて変わっているところがあるといえば、家電量販店で気軽に触れられそうな49鍵のエレクトーンとすっかり年季の入ったアコースティックギターがベッドサイドにポツリ。それ以外には、ほぼほぼ無個性と言ってもいいような彼の部屋。しかしそれは本来あるべき姿であって、今は違う。部屋の隅に無理やり詰めるようにして置かれていた段ボールの山が、待っていましたと言わんばかりに来客の視界に否応なしに飛び込んでくる。
「 ごめんなさい、クッションとか用意してなくて …… えっと、取り敢えずそこのデスクチェアでも、ベッドでも好きな所に座ってもらえれば 」
 正直、この企画に参加した時にはこうして部屋を行き来する来客のことなんてまるで考えていなかった。どうせ企画が通らなかったとしてもアサギには暫く世話になるのだし、用意して損はないなと考えを改めつつ、取り急ぎの持てなしのためにあれやこれやと忙しなく動き出した。

綿津見 麗楽

いや、俺さん自体は不真面目だから、見習わないほうが身の為だよ、?茶トラ君は茶トラ君で良い!…と、俺は思う。
(自分自身は真面目な人間では無い。目に見えているモノも、見えていないモノも、まずは行動に起こさなければ、腐敗するだけ。それが嫌だっただけで、真面目…と言うよりかは、欲張りと言った方がしっくりくる。おかげで、興味があることにはなんでも足を突っ込む。料理も、外国語も、歌も、楽器も、人間関係も………全て好奇心の産物だ。課題は進めていると言えども、案をいくつか出して、その案たちを綺麗に整え形にするという…まぁ曖昧な作業をしているだけ。大きな氷塊を自分の持ち合わせる道具で削って作品を作ってゆくイメージだ。・・・ン?クラゲ君のこと…?課題が多少遅れても怒ることは無いは思うが……カレ、見失ったら何処かに漂って行き、捕まえられなくなっちゃうから。(………何処かのキャラクター思い出した人素直に手を上げなさい……うららさんもそう思う。 茶トラ君に柔らかい笑みを送ったのは、『いつもどおりの態度が一番』だと思ったから。無理やり彼を輝きに満ちた世界に引き込んだら、きっと消えてしまう。ならば彼の歩調に合わせながら、ゆっくりゆっくりエスコートするべき。カルガモのお母さんみたいだと思ったが、間違いじゃなかったと思う。実際に、自分の後ろを追いかける小さな雛鳥が3匹いたのだから。)
匂いって訳では無いけどね?ンー…でも今日は甘い匂いがちょっとする。
(猫の様にするりと先に目の前を通った相手を見てやっぱり茶トラ君で正解だったなぁと1人満足して。”お邪魔します”と言ってから、入った彼の部屋は、良くも悪くもシンプルだった。エレクトーンとギターがあることに対しては、やっぱり音楽をやる人間だなと思ったが……予想以上の段ボールの山に、思わず宇宙猫状態。思わず”ひっこしだんぼーる…?”と本音が漏れてしまったのは許してもらいたい。彼の祖父母の愛情は、思っていたよりも重量級だった。)
あ〜大丈夫、大丈夫。勝手に座ってるからお気になさらず〜
(邪魔にならずも、遠すぎない様な場所を選び、そこであぐらを掻く。なんとなくだが、下手に手伝わない方が良いと思ったので、左手でクルクルと銀髪を触れる。こっちに来てからこの長さが定着してしまった。学生時代は、いわゆるボブと言われる長さだった。髪に関する校則は緩めな学校だったから助かった。・・・・髪を伸ばすって願掛けの意味があるのはご存知?俺の願い事は秘密☆) 

天下井 良弥

自分を不真面目だなんて呼んでいる割に捧げられる細やかなフォローの数々。これを真面目と呼ばずして何と言うかと思わず口にしそうになったが、恐らく彼の中でこれらの行為は『真面目』の内に入らないのだろう。極々当たり前な、出来て当然とでも言うべき普通のこと。だからそんな言葉が出てくるのだろうと、テーブルと小皿を引っ張り出しながら一人納得した。段ボールの中から取り出した色とりどりの輝きの和菓子。まるでアサギを表しているかのような多種多様の色味を持つそれを手際良く皿へと移しながら、同じく段ボールに視線を送る彼の少し圧倒されたような表情に苦笑を返す。
「 ええと、取り敢えず生菓子だけ優先的に出しちゃいますね。日持ちしないんで 」
残ったものは後で共有スペースでばらまこう。そうでもしなければ処理しきれない。あ、スタッフさんに差し入れするのも全然アリだな、人脈作りになるし。パッケージを開きながらさっさっと取り分けていくのは、団子や大福、蒸し羊羹にカステラとこれまたいろんな種類の和菓子の数々。せめて全て干し菓子だったらまだ色々と方法があったが、何せ名物が団子の店だ。無理を言っても仕方がないだろう。盆の上にそれぞれの菓子を綺麗に並べた皿を乗せ、黒文字をそろりと側に置く。
「 遠慮しないで、食べられるだけ食べてっちゃってくださいね。あ、お持ち帰りも歓迎してるんで 」 
にこり、笑顔で差し出しながら傍には別に高級品でも何でもないペットボトルの茶を一つ。楽しいお茶会の始まり始まり、なんて垂れ幕が頭にかかりつつあった。

綿津見 麗楽

 (もしかしたら、自分の答えは相手にとっては不服かもしれない。自分からしたら相手の方がよっぽど真面目に見える……と思ったけど訂正。真面目じゃなくて『優しい子』。人を気遣えて、相手を不快にしない様にと時に己を傷つけて。だから…まぁ……もう少し、自信を持って良いと思った。段ボールの中から取り出されていく綺麗な和菓子たち。ひとつひとつが作品で、正直1個だけだったなら食べるのを戸惑ってしまう……が、今回はその戸惑いは邪魔にしかならない。だって・・・ね?)
遠慮したら減らないだけだもンね。ンじゃ、有り難くいただきます。
(両手をしっかりと合わせてから丁寧にいただきますと言い、早速大福に手を伸ばす。そして丸々とした大福は、ガパリと大きく開けられた穴に、落ちていった。ハムスター程では無いが、頬いっぱいに大福が入り静かに咀嚼している。………真顔でひたすらに咀嚼しているが通常運転である。感想は、とても美味しい。口に入れたまま喋るのは汚いので、両手でぐっと!とサインと送る。和菓子はあまり食べる機会がなかったが、多分今まで食べたもので、素朴ながら優しい味がした。成る程……やはり手作りは美味しい。たまにお団子はもらったりしたが、大福も美味しい。次は何にするかと考えながら、ゴクリと大福を飲み込んだ。だって今回は良くも悪くもたくさんあるのだ。) 

天下井 良弥

此方の思いを汲み取ってくれたのか、単に空腹が為せる技なのか。どちらにせよ、綿津見麗楽はよく食べる男だった。今回の場合、僥倖という他ない幸運だった。相手の前に腰を下ろしながら、適宜パッケージを開封しては追加し、を繰り返しつつ、自分も一つ二つはつまんでいく。あまり世話ばかりして食べないと、此方に善意から食べ物が飛んでくるのは秋暮で散々経験済みだ。俺のような野暮ったいのに気を遣ってしまう時間なんて、アサギの新人類にとっては損失でしかないだろうし。それにしても、本当によく食べる。それも黙々と、そして頬いっぱいに甘味を口にしている。齧歯類のような食べ方のお手本のような様に、年上ながら何処か愛らしさを感じる。根源的な可愛さだ。こういった何気ないところから、人は愛されるようになるのだろう。純粋な微笑ましさと少しの羨望とを含みながら、クスリと思わず笑みを溢した。
「 気に入っていただけたようで何よりです。 あ、でも喉に詰まらせないようにちゃんとお茶も飲んでくださいよ? 俺の部屋で綿津見さんの死体が上がるなんてこと、想像もしたくないですし 」
機を見計らいつつ、適宜飲み物の量にも気を配る。存外此奴らは人類に必要不可欠な水分を奪いがちなのだ。下手に喉が乾いているときに押し込もうとしようものなら、それこそ命にかかわりかねない。自分で言っておいてなんだが、『 若者たちの青春の場で何故?和菓子殺人事件で容疑者の18歳逮捕』なんて週刊誌に取り沙汰されそうな見出しが頭を過ぎり苦笑してしまう。そんな冗談を言える程度には彼を信頼しているから、だからこその心配とも言えるのだろうけれど。

綿津見 麗楽

(いつも良く回っている口は、甘味によって蓋をされ、ひたすらに咀嚼行為を繰り返す。ハムスターでは無い、れっきとした人間である。かなり食べる方と、思われるのは仕方がない。これでも体格に恵まれた方なのだ。食べた分だけエネルギーは消費しているので、まだ太って無いはず…。食べ終わると追加されていることがあるので、ひょいと軽く手を伸ばしてしまう。飽きることは無いのだが……顎が疲れる。ならば頬いっぱいに詰め込むなと?。食べこぼしを出したく無いから、癖だからを理由に言い訳をしておこう。ふと、正面に座っている相手が笑った。自然に溢れ落ちたような笑みを見て”そっちの方が良い顔してるね” という素直な感想は、ゴクリとあまい甘味と一緒に喉を通って胃に落っこちるのであった。)
あ、お茶ありがと、!だいじょぶ、だいじょぶ!うららさんは最低でも”15年”、最高で300年ぐらいは生きてる予定だからさ。茶トラ君の部屋で、死体は出さないよ〜!
 (もらったお茶に口を付けて、閉じられていた口がまたクルクルと回ってゆく。サービスで笑顔もちゃっかりついてきた。ちなみに、300年は流石に冗談である。神でも妖怪でも無いのだから。15年と具体的な数字は出たが、病気を持っている訳では無い、未来が見えている訳でも無い。メンバーのうち、2名くらいが持っているであろう、似た思考回路から出たのが”15年”。しっかりとした意味はご想像にお任せするよン。今すぐ死んでしまう予定はうららさんに無いから安心して。)